マットをはたく、そしてそれから…の話。


暑くても風のある良い日だった。

マットを立てかけているところに立つと

この高さがあれば影になって涼しいと思っていたが

影になっていたのはキャップの先で

体はひなたにいたので笑ってしまった。


またマット洗うの?なんて

言われてしまったが

もう今月の分の日付が来ていたのだ。


給料日が来る、それはマット洗いの仕事が

来ると同義なのだ。


風が吹いて砂埃が立ち上っていく。

マット洗いはきついけど嫌いではない。

ひとりで作業できるし

はなから孤独なので誰の目も気にすることなくはたきまくることができる。


砂埃の中にいろんなものを見た。

暑さのせいだろうか。


こんな仕事、同じ大学を卒業した人間は誰もしてない。

こんな仕事、誰も手伝ってくれない。

こんな仕事、こんな仕事……

まるでひとり砂漠の荒野にいるような……

ぎらつく日差しと砂埃の立ち込めてるせいだ。


色々考えたが、大学の先生が職業に貴賎はないと言っていた。

あれがどんな時でも自分を救ってきたような気がする。


パン屋で泣かされてる日も、やけ起こしてちょっぴり勝手にサービスしてる日も。

コンビニで先輩を馬鹿にされて、お客さんに掴みかからん勢いになって悔しかった日も。


こんな仕事就かない方が良いと思うなら

就いてくれてる人に感謝しても良いはずだ。


涼しい中自分の出したゴミを回収する人間がいなかったら

そこら中ゴミだらけになっているし、

吸い殻だって灰皿に捨てたって勝手に片付くわけじゃない。


後輩は日に焼けたくないんですって

言ってたけど自分の仕事では難しそうだ。



飛沫がかかって濡れているのと

飛沫をかけて濡らすのとでは

意味合いが異なることを知った。


濡れたマットをひっくり返すときに

エプロンが砂だらけになって

つい濡れてるしとシャワーをかけてしまった。


びしょ濡れたので絞って干しているが

今日も無事かかっていることを祈る。



こんな仕事……なんて言ってしまったが

マットしばきの仕事は晴れた日にしかできないので

毎月一回行えば必ず虹が見れる。

それは少し幸福なことかもしれない。


どんな仕事でも貴賎はない……

がんばるしかない。


そんな昼下がり。