夢の話。

自分の前を歩く父さんと癖毛の弟。

保育園くらいの頃だろうか、まだまだ小さい弟の手を引く父。

 

これは祖父母の家の近くのスーパーの近くの小道。

両脇の木々が2人を額のように飾ってた。

 

振り返ってわたしを待つ2人。

夏だ。自分は好きだったデニムのショートパンツを履いてた頃の夏。

足が太いのに出しててどうすると近所の

今はいないおばあさんに言われたパンツ。

それ以来なんだか見ないようにしてた事実を

客観的に指摘されたような気がして履けなくなったパンツ。

 

父さんがお昼美味しかったね、

みんなにもお土産に買って帰ろうかと

お店に電話して引き返してきたのだ。

 

幸福そうな2人の後ろ姿を見る

自分はなんだか遠いものを見る目だ。

そういえば父さんはよく食べ物を

お土産にしていた。

誰もお腹空いたと悲しむことのないように。

 

帰ってトイレから出ると妹が猫?に

粗相されてお気に入りの白一色ランシューズが

悲惨な目に遭ってた。

あの頃夏にしては妹は大きかった。

 

ランシューズと共に帰ってきて

ひと段落つこうと思っていたその刹那

猫?のようなものが粘度を持った謎の

黄色く透き通った松脂のような液体を

妹自身にも、お気に入りのシューズにも散らけて

当の本人は慌ただしく階段を駆け登っていった。

猫はそんな粗相はしないあの生き物はなんだったんだろう。

 

 

さておき、もう1人のおとなしい方の妹と共に父さんとバタバタとしていて

とりあえずそのシューズをトイレットペーパーで

拭くように言ったりとか

クリーニングに出すのかお金ちょうだい!と

口早に言ってた。

大事なものが失われかけるときの

怒りとか悲しみとか混乱とか涙と鼻水と

目のふちの赤みとか

そういうものがないまぜになってた。

 

昔よく見た泣き顔だ。

あの頃はよく泣いてた、いろんなものにむつかっていたようで。

 

鳥肉の甘辛煮弁当を父さんと弟とお土産に

帰ってくるまでの幸福そうな夢が

家に帰ってから変に速度を増して

変な悪夢みたいな

慌ただしく、そして不機嫌な感じに

埋め尽くされていった。

 

久しぶりに妹や家族といる夢を見た。

父さんはいつも優しい、

偏食が増えてなんだか食べるものとそうでないものとが増えたけど

いつまで一緒にいれるのかな

 

こんな夢見せないでほしい。

駆け足で引きちぎるように終わった夢。

みんな最後は慌ててた

 

こんな状態の、父さんと顔を合わせて話せば

父さんの病気のこと、自分のこれからのこと今のこと、嫌なことととも顔を合わせなきゃいけなくなる。

 

せっかくふたりで話してるっていうのに

名義を共同のものから母さんひとりのものに

変えるんだなんて言うから

何か、口に出すのも嫌な何かに

備えているから?とか

変な方向に働く思考が色んなものを呼び寄せて

何もかもが嫌だ。

 

犬もいて妹もいて、過ぎ去ったものが

過ぎ去らなかった夢を見せて欲しい。

 

月は嫌い窓からまぶしすぎる光で

目を覚まさせるから。

 

月は嫌い夜を照らすのには不十分なのに

影はより濃く描くから。

 

自分には癖毛の弟はいない。

あの人懐こそうな笑みの少年は誰だったんだろうか。

ふとすれば失ったものについて認知症の老人のように

忘れてはそうして、ありありと思い出させる。

 

海に浮かぶやわな小島、

普段は心地よく誰もいない孤島。

魚釣りをしながら日々1人で暮らしてる。

でも孤独ではない。穏やかだ。

 

過ぎ去った思い出と共に楽しく暮らしていて、

自分にはこんな素晴らしい人たちがいて

囲まれていたんだと、優しい日差しに包まれている。

それは過去でも輝かしかった過去だ。

 

ヤシの木にもたれては春風のような

常夏のようなほのかに蒸し暑い風の中で

目を瞑りねむる。

ひとりで暮らしているが孤独ではない。

そういう帰りたかった過去の思い出たちと暮らしている。

 

 

ただひとたび不意に嵐がやって来ると

波は容赦なく島にあるたった一本のヤシの木や

それにしがみつく私に幾度となく冷水を浴びせ

ふきすさぶ風は孤独な中

雨粒、細かくてももはやつぶてのような雨が

唯一の友の様な体温すら奪っていく。

 

寒いだとか吹き飛ばされそうだとか

そういう段になってやっと

ここには頼れる人はいないし

 

過ぎ去ってしまったものは

砂浜のきらめきのように

手からこぼるばかりで

なんの役にも立たないことを

突きつけてきたりする。

 

帰りたい過去!?今はどう?!

帰れないよ!

どこから帰れなくなった過去?

過去のどこからやり直せるならやり直したい?

現実、やり直せるのは現在だけだけど!!

そんな状態で大丈夫!?

綺麗な日々に泥を塗るだけの日々になんの意味がある!?

戸を叩くような、急いた雨粒と風が

乱暴にも問い詰めてくるようだ。

 

過去を思い出すなら木漏れ日の日が良い。

慌ただしい嵐の夜にはいやだ。

必死にヤシの木にしがみつく夜。

当分続きそうだ。

 

心落ち着かず忙しない、

先生の言う通りだ、

そんな夢を見るようになる前に

早く行くべきだった。

 

でもそんな夢を見る前にどうやって

不安の尻尾を掴めば良い?

彼らは不意に姿をあらわす。

 

出来ることならもう誰にも迷惑をかけなくてよくなることしたい。

でもそれは残った人々に同じ悲しみを負わせること。

 

振りかけなくいい悲しみなら

料理にかける最後の要らぬ隠し味のように

かけなくて済むならかけないままでおきたい。

 

そんな夜。